Oyanecoのティータイム

本と読書にまつわる雑感。たまに映画。

止めたバットでツーベース

『止めたバットでツーベース』

村瀬秀信

双葉社

 

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村瀬秀信氏は、ベイスターズファンの間では言わずと知れたガチファンライターの方です。先に『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史』を読んでいた私は、新刊が出ると聞いて真っ先に購入しました。

 

本書はインタビューを基にしたエッセイ集ですが、しょっぱな第1章の「君は近藤唯之を知っているか」を読んで、「あれっ、一見さんお断りの店に来ちゃった?」に近い印象を受けて若干慌てました。割と新規なベイスターズファンの自分は近藤唯之氏のことはもちろん知りませんでしたし、読んでいると何かヤバイ人のようにも思えるし、仕事ぶりが壮絶だし、この本はニワカファンお断りの濃い空間なのか.....とすでに引き気味でした。

 

勇気を持って読み進めると、第2章「ヤクルト弁当屋」です。ここで私は自分の居場所を見つけた気分になりました。店先でヤクルトのTV中継を流しながら、野球ファンの客を捕まえて延々とヤクルトとプロ野球について語るという信じられない弁当店が巣鴨にあるらしい。行ってみたい。

 

第7章「ジントシオ」では応援が有名な千葉ロッテ応援団伝説のソングライター、ジントシオ氏の悲喜交々が描かれ、応援団という必要不可欠だが一種異様な組織について教えてくれます。

 

第11章では満を持して我らが山崎康晃の伝家の宝刀ツーシームの由来が描かれます。亜細亜大学野球部で山崎康晃東浜巨、薮田和樹、九里亜蓮が同室だったという野球マンガか!と突っ込みたくなるような事実。東浜から後輩たちに受け継がれたツーシームは実はツーシームじゃなかった?! とかね.... この章は思わず息子に読み聞かせをしてしまいました。

 

最終章は本書タイトルにもなっている「止めたバットでツーベース」。このキャッチーで謎なフレーズの真意がやっと明かされます。「選手も、ファンも、自分の出来得ることで、誰かのために力になりたいと願う。野球を動かしているのは人間の情だ。人間のよろこび、悲しみ、義侠心。怨念にも似た妬み嫉み。そんなものがどちらへ転ぶともしれない白球を媒介としてぶつかり合う。だからプロ野球は人間くさい。だからプロ野球は人の心に突き刺さるのだ。」(本文より引用)という一文が総括となっていて鳥肌が立ちました。

 

全国津々浦々の「普通の人々」のプロ野球に対する熱い思いが詰まりすぎている本です。コアなファンには共感を、ライトなファンには畏敬の念を起こさせる(かもしれない)。シーズンオフの読書に(もちろんシーズン中でも)、是非。