Oyanecoのティータイム

本と読書にまつわる雑感。たまに映画。

『雪子さんの足音』

『雪子さんの足音』 木村紅美 (講談社

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映画化された作品を観ようと思っていたら都合が着かずに公開が終わってしまい、原作を読むことにしました。本書に没頭した結果、映画化された作品を観たいとは思わなくなりました.....。

 

(ブックレビューなので、ネタバレを嫌う人は読まないかとは思うのですが、子細に内容を書く趣味も無いので適当にぼかします)

 

大学3年生で作家志望の湯佐薫(男)は、月光荘というカンカンアパート(外階段2階建ての木賃アパート)の2階に入居します。1階に住む大家の雪子さんは息子を亡くしたばかりの上品な高齢女性。ある日、夕食に呼ばれそれなりに楽しい時間を過ごしますが、その後も頻繁に誘われ(決して強引ではないのですが)、断ると差し入れをもらうように(料理がおいしいのと、食費が浮くので薫も甘えています)。最初の晩同席した小野田さんという同じアパートの若い女性も薫を憎からず(それ以上か)思っているようですが、薫は小野田さんを野暮ったくてうっとうしい存在としか思えず.....。

同じアパートという至近空間にうずまく細やかな愛情が不気味。薫もいろいろ考えすぎてだんだんおかしくなっていきます。誰が悪いわけでもない(途中までは)のに、何だか切ない。

 

登場人物の誰かに一方的に感情移入するような小説ではなかったですが、薫の身勝手さに「おいおい、そこまでしてもらってそうくるか」と突っ込みまくりました。かと思えば「これは、確かにキモイ....」と共感する面も多々ありました。一方、若い男性の世話を焼きたいという雪子さんの願望は自分の中にもあるように思えたり。非モテ女子っぽい小野田さんの気持ちも何かわかる.....。あ、意外と感情移入していました。

 

それでどうなったの?というところまでしっかり読者に見せてくれて、消化不良感が無いところも良かったです。またじっくり読みたいと思わせてくれる作品です。