Oyanecoのティータイム

本と読書にまつわる雑感。たまに映画。

『明るい夜に出かけて』 #アルピーann

『明るい夜に出かけて』 

佐藤多佳子

新潮社

 

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私がラジオを一番よく聴いていたのは中学1年生の頃です。学校が終わって、夕方ふと時間ができた時につけたラジオでたまたま出会った番組をずっと聴いていました。種ともこ大江千里の番組が好きで、曲をカセットテープに録音して次の週まで(その後もずっと)聴いていました。夜は「クロスオーバーイレブン」という番組を聴いてから寝ていました。深夜ラジオというジャンルは未知の世界でしたね。

 

『明るい夜に出かけて』はラジオリスナーの物語です。しかもかなりガチな。

 

主人公は20歳男、富山一志(かずし)。大学1年目のある出来事をきっかけにメンタルを病んで休学し1年間限定で一人暮らしをしながらアルバイトをしています。幼いころから男女問わず人に触れられると不快感が強すぎて、頭が真っ白になってしまうというこじらせ男子です。バイト先は深夜のコンビニ。トミヤマはAMラジオのリスナーでハガキ職人(しかも結構読まれる)。彼は深夜ラジオ、「アルコ&ピースオールナイトニッポン」を唯一の心の支えにしています。

トミヤマが病んだきっかけに一枚かんでいる高校からの友人で同じラジオオタクの永川、バイト先の先輩で歌い手の鹿沢(かざわ)、コンビニに突如現れるリスナーで凄腕職人の佐古田(さこだ、JK)。この3人がトミヤマの理解者となります。自分より職人として上のはずの佐古田に尊敬され、鹿沢に謎に構われトークのネタ提供を求められるなどして戸惑いながら、トミヤマは彼らとの新しい関係性に半ば強制的に巻き込まれ、やがて自分の変化に気づいていきます。

 

コミュ障を自称する主人公が、新しい出会いを通じて無意識に精神的な社会復帰を遂げる姿が清々しい。佐藤多佳子の手になる男子の自分語りも秀逸。

 「世界から色が無くなる感覚」で心療内科医に薬を出されても、ラジオを聴いているときは笑っていられるから自分は病気だと思わなかった、薬で治るような病気ならむしろ簡単だ、というくだりは確かにそうかもなと思わされました。

マチュアであっても、好きなものに対しては本気だ!という矜持を持っていることが結果的に自分を救うことになるところも良かったです。あと、コンビニの店長が地味にツボです。

 

トミヤマの佐古田に対する想いは決して恋愛らしい描き方はされていませんが、コンビニに遊びに来てくれないとモヤモヤしたり、素材がかわいいのに身なりに無関心な佐古田を連れまわして可愛く「改造」してしまったり、やっぱり恋なんだろうなと。ラスト以降、二人がどうなったのかを想像するのも楽しいです。二人でタッグを組んでプロジェクトを企画したりしてほしいな~。

 

個人的にめっっちゃ好きな作品で、表紙を開くと何度でも読んでしまう本です。ラジオの描写は詳細でかなりマニアックですが、ストーリーはリスナーじゃなくても十分楽しめます。