『カジマヤー(風車祭)』〜魂と過ごした夏〜
『カジマヤー(風車祭)』(上・下)
角川文庫
沖縄のことが知りたい!という気持ちから手に取りました。沖縄と言っても地域性が多彩ですね。本書は八重山諸島石垣島が舞台。池上栄一氏は石垣島出身で、琉球の世界観をベースに小説を書く方です。
主人公の比嘉武志は高校生。バスケ部に所属するごく普通の少年ですが、近所のトミオバァを慕って家に入りびたるなど人懐っこいところがあります。トミは善良な老婆ですが、彼女の祖母フジはブッ飛んだ人で誰もが眉をひそめるような倫理感皆無な言動を常としています。フジは長寿に執着し、カジマヤー(97歳の祝祭)をすることを念願としています。
ある日、武志はとある霊場で自分の魂である「マブイ」を落としてしまいます。「マブイ」とは人間本人の潜在意識がアイデンティティを帯びた魂のようなもの。マブイを落としても人間は一見普通に生活できますが、霊感のあるユタに「マブイ込め」をしてもらいマブイを肉体に戻さないと遅かれ早かれ肉体は衰え死んでしまいます。
武志は廃屋で盲目の美女マブイ、ピシャーマと出会い一目惚れ。彼女は嫁入りの日に大津波に遭うも死に損ない、島を228年間さまよっている存在。かなわぬ恋と知りながら、武志は思いを募らせますがピシャーマのお伴をしている妖怪豚ギーギーは武志に恋をしてしまい邪魔をしようとします。
島にはある不吉な惨禍の前兆がみられ、ピシャーマはそれに気づき何とか武志やフジを通じてそれを島民に知らせようとしますが....。
八重山諸島の歴史、伝承や島唄、神事に導かれて物語は進みます。巻末の参考文献が膨大!この小説は、さながら民族誌の役割をも果たしているかのよう。
あらすじに書いた人物のほかにも、たくさんの濃~いキャラクターたちが登場します。それぞれが重要な役割を演じ、結果として回収されない伏線は無くすべてがラストにつながっているところに池上永一の力量を感じました。
島の雰囲気を存分に味わえる素敵な作品でした(語り口はあまりお上品ではないです)。
この本で覚えた島言葉:
チュラカーギー:美人
ヤナカーギー:不美人
ワジワジーする:イライラする
フラー:ばか
ユクシー:うそ
アギジャビョー:あれまあ
デージ:大変
グソー:天国
おもしろーい。自分の世界が広がった気がします。